
建物を解体して更地にすれば、高く売れるよね…
長年住んできた家や相続した実家を手放すとき、「せめて高く売りたい」と思うのは自然なことです。
でもその裏側で、アスベスト調査や解体費用、確認申請といった「見えないコスト」が、確実に売却価格に影響を与えます。
実は2021年の法改正以降、すべての解体・改修工事でアスベスト調査が義務化されています。
さらに、買主が再建築やリフォームを前提にしても、建築確認申請が通らなければトラブルに発展する可能性も。
この記事を読むことで…
- 売主が取りうる4つの選択肢(更地渡し・建物付き売却・リフォーム前提・放置)が整理できる
- 各選択肢のメリット・デメリットが理解できる
- 「見えないコスト」が売買価格にどう反映されるかが分かる
- トラブルを避けるために、不動産会社選びで注意すべきポイントが掴める
知らずに進めると、「こんなはずじゃなかった」と後悔することにもなりかねません。
ぜひ最後までお読みくださいね。
1. すべての解体・改修工事でアスベストの事前調査が義務化
これまで「規模の大きな工事」だけが対象だったアスベスト調査。
しかし2021年以降は、建築時期や規模を問わず、すべての解体・改修工事において事前調査が義務化されました(石綿則第3条)。
- キッチンやトイレの交換、壁のはつり作業などでも対象
- 調査を行えるのは有資格者のみ(DIYは不可)
つまり「ちょっとした工事だから大丈夫」という言い訳は通用しません。
アスベストとは?
アスベスト(石綿)は、かつて断熱材や耐火材として広く使われていた繊維状の鉱物です。
丈夫で安価という利点がある一方、吸い込むと肺がんや中皮腫といった重い病気を引き起こすことが分かり、現在は使用が禁止されています。
日本では1970年代〜80年代に建てられた建物に多く使われており、古い家屋を解体・改修するときに飛散リスクが高いとされています。
そのため調査・適切な処理が法律で義務付けられているのです。
詳しくは、環境省が公開している
「石綿(アスベスト)に関する情報」
に整理されています。
2. 調査費用はどのくらいかかる?
アスベスト調査は無料ではなく、一定のコストを伴います。
- 図面・目視調査:1棟あたり4〜8万円程度
- 分析調査:1検体3〜5万円(採取費用を含めると1件で数万円〜十数万円)
- 築年数が古い建物では、サンプル数が増え費用も膨らむ
国や自治体によっては補助金(最大25万円/棟)が出ることもありますが、
「解体費用+アスベスト調査費用」という現実的な出費は避けられません。
3. 実際にアスベストが見つかったらどうなる?
調査の結果、アスベストが含まれていると判明した場合は、通常の解体とは異なり専門業者による除去作業が必要になります。
- 除去費用が高額:木造住宅でも50万〜200万円以上かかるケースも。大規模建物や吹き付け材の場合はさらに高額。
- 工期が延びる:飛散防止の養生や安全管理のため、通常の解体より日数がかかる。
- 届出や報告が必要:大気汚染防止法に基づき自治体へ届出が義務付けられており、違反すれば罰則対象に。
除去工事には自治体への届出も必要です。
松戸市も公式に 「アスベストに関するQ&A」 を公開しており、基礎知識として目を通しておくと安心です。
費用は誰が負担するのか?
基本的には解体工事を発注した側=売主が負担します。
ただし、建物付きで売却する場合は、買主が「解体+除去」を見込んで価格交渉してくるため、結局は売主に跳ね返ってきます。
「想定外」が一番のリスク
一番怖いのは「聞いてないよ!」という状況です。
解体の直前に追加費用を突きつけられれば、せっかくの売却計画が一気に崩れかねません。
逆に、事前に調査をしておけば、最初からその費用を見込んで計画を立てることができます。
アスベストが見つかると、除去費用や工期、届出義務など負担が一気に大きくなります。
さらに、最近では解体費用そのものが高騰しており、放置すれば「負動産」に陥るリスクも見逃せません。
→ 詳しくは空き家解体費が高騰中!放置で資産価値ゼロの危険もをご覧ください。
4. 売主にはどんな選択肢があるのか?
ここまで見てきたように、アスベスト調査や除去費用は避けて通れず、結局は売主の負担や売却価格に反映されます。
では、売主はどのような売却方法を選べるのでしょうか?
代表的な選択肢は次の4つです。
① 売主が解体後、更地にして引き渡す
- 売主が解体・調査を行って「更地」として売却
- 買主にとって利用しやすく需要が広い
- ただし数百万円規模の費用を先に負担
👉 メリット:売れやすい・早期成約
👉 デメリット:売主の負担が重く、手取り額が減る
② 建物付きのまま売却し、買主が解体して再建築
- 売主は解体せずに売却、解体・調査は買主負担
- ただし 建築確認制度の改正により、木造2階建なども確認申請が必要に
- 設計料・審査料などの追加費用が発生し、価格交渉で売主に跳ね返る
👉 メリット:売主の費用負担が小さい
👉 デメリット:価格が下がりやすい
建築確認の仕組みについては、国土交通省に詳しい資料が公開されています。
→ 詳しくは 令和4年度改正・建築確認・検査の対象となる規模見直しについて をご覧ください。
③ 建物を残し、買主がリフォームして活用
- 古家をリノベーションして住む、賃貸化するニーズも一定数ある
- ただしリフォーム工事もアスベスト調査が必須
- 大規模改修では建築確認申請が必要になり、費用がかさむ
- 申請が通らなければ希望のリフォームができず、トラブルに発展する可能性も
👉 メリット:状態が良ければ思った以上の価格で売れることも
👉 デメリット:需要が限定的、トラブルリスクあり
④ そのまま放置する
- 解体も売却もせず、空き家のまま保有
- 老朽化によりアスベスト飛散・倒壊リスクが増大
- 「特定空き家」に指定されれば固定資産税の優遇が外れ、税負担増
- 将来的に「売れない土地」になる恐れも
👉 メリット:当面の出費ゼロ
👉 デメリット:長期的に資産価値が下がり続け、負動産化
空き家をそのまま放置しておくと、資産価値の下落だけでなく固定資産税の優遇も外れます。詳しくは別記事で解説しています。
→ 【松戸・柏・流山】空き家解体費が高騰中!放置で資産価値ゼロの危険も
5. 買主のコストは、結局売主の価格に反映される
- アスベスト調査費用
- 解体費用
- 建築確認申請費用
これらは最終的に売買価格に織り込まれます。
つまり「土地だけなら高く売れるはず」と思っていても、実際には買主が見込むコストを差し引かれ、希望価格では売れないのが現実です。
6. 安心して売却するために、不動産会社選びで気をつけたいこと
特にリフォーム前提で購入される場合、確認申請が通らなければ買主の計画が頓挫し、売主にクレームが及ぶ可能性もあります。
- アスベスト調査の要否
- 解体・リフォームに伴う確認申請の必要性
- その費用やリスクをどう売買価格に反映させるか
正直、私自身もこのあたりの制度改正を詳しく知ったのは最近です。
それくらい、不動産業界の中でも情報のアップデートが追いついていないのが現実です。
だからこそ、売却を任せる相手が「こうした最新の制度やリスクをきちんと把握しているかどうか」がとても大事になります。
知らないまま進めてしまえば、売主・買主ともにトラブルに巻き込まれる危険があるからです。
また、相続や認知症などで名義変更がスムーズに進まないケースもあります。
その場合、成年後見制度について知っておくことが、売却プロセスをスムーズにする鍵になります。
→ レポート:松戸市の成年後見セミナーで講師を務めましたをご参照ください。
まとめ
- 2021年4月以降、解体・改修工事はすべてアスベスト調査が義務化
- 売主の選択肢は「更地渡し」「建物付き売却」「リフォーム前提」「放置」の4つ
- どの選択肢でも最終的にコストは売買価格に反映される
- リフォーム前提でも確認申請が通らなければトラブルになりかねない
- 知識のない業者に任せれば、取り返しのつかない事態になるリスク大
👉 不動産を「売れる」と思い込む前に、現実のコストと法規制を確認すること。
👉 そして、信頼できる専門家に相談することが、最終的に手取りを守る一番の近道です。