資産整理

「あとでやろう」は通用しない。──相続空き家の3,000万円控除、期限を逃す前に

売るのは、もう少し先でいいか・・・

──そう思っているうちに、気づけば控除の期限を過ぎていた。

相続空き家の3,000万円特別控除には、“3年以内”という明確な期限があります。
たった数ヶ月の差で、数百万円の税金が変わることも珍しくありません。

「まだ大丈夫」は、いちばん危ない。

この記事では、この制度の仕組みと注意点をわかりやすく整理しながら、“使えるうちに使う”ためのポイントをお伝えします。
あとでやろうは、通用しません。いまのうちに確認しておきましょう。


こんな話、どこかで聞いたことありません?

相続した実家をそのままにしておいたAさん。

売る決心がついたのは、相続からちょうど3年を過ぎたころ。
「3,000万円控除っていう制度があるらしいよ」と聞いて税理士に相談したところ、「残念ですが、もう期限が過ぎています」と言われて愕然としたそうです。

──実は、こうした“ほんの数ヶ月の油断”が、いちばん多いのです。

制度を知らなかったばかりに、本来払わずに済んだ税金を納めることになったり、兄弟間で「なんで早く言ってくれなかったんだ」と揉めたり。

相続の現場では、“知っているかどうか”が人生の分かれ道になることがあるのです。


相続空き家の3,000万円特別控除とは?

相続した家を売るときに使える、国の特例制度です。

一定の期間内に相続した空き家を売却した場合、譲渡所得(売却益)から最大3,000万円を控除できます。

譲渡所得とは、不動産を売却した際に得られる利益のこと。
通常、この利益には所得税や住民税がかかります。

これは非常に大きなメリットがあります。

適用されるケース(具体例)

相続した実家を売却して2,500万円の利益が出た場合、この特別控除を使えば、課税所得は0円となり、税金は一切かかりません。

仮に3,500万円の利益が出たとしても、3,000万円を差し引いた500万円だけが課税対象になります。

つまり、この制度を正しく使うかどうかで、数百万円単位の節税効果が生まれるのです。

ただし、この制度は「誰でも・いつでも」使えるわけではありません。
適用を受けるためには、家の状態・売却時期・売却先など、いくつかの条件を満たす必要があります。

ここを誤解したまま進めると、「適用されない」と税務署で跳ねられてしまうこともあるのです。


適用を受けるためのチェックリスト

ここからは、制度適用に必要な項目を一つ残らず列挙します。
「抜け」があると適用を受けられないので、必ず確認してください。

  1. 期限(譲渡の時期)
    相続開始の日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡(=売買契約を締結)すること。さらに、この特例自体の適用期限は令和9年12月31日までである点に注意。国税庁+1
  2. 被相続人の居住実態
    亡くなる直前に被相続人が居住していた家屋であること。
    老人ホーム等に入所していた場合でも一定の条件で認められるケースがありますが、居住実態の確認が必要です。国土交通省+1
  3. 建築年(旧耐震基準)
    昭和56年5月31日以前(=1981年5月31日以前)に建築された家屋であることが原則です。これが満たされないと、特例の対象になりません。国税庁

    この条件を満たす家は年々減っています。昭和56年5月31日以前に建てられた住宅はすでに築40年以上。つまり、制度としては存在していても、実際に使える人はごくわずかです。「3,000万円控除があるから大丈夫」と思っていても、対象外であるケースが大半ですね。
  4. 区分所有(マンション)ではないこと
    区分所有建物(分譲マンション等)は対象外です。必ず登記事項証明書で建物形態を確認してください。国税庁
  5. 譲渡価格の上限
    譲渡価格が1億円以下であること(1億円超は適用対象外)。
  6. 相続人の人数による控除上限
    令和6年1月1日以後の譲渡については、相続人が3人以上である場合、控除額は最高2,000万円となります(それ以前は3,000万円が上限)。国税庁+1
  7. 相続から譲渡までの使用状況
    相続後に「事業用」「貸付用」「自分の居住用」に使っていた期間があると適用外になる場合があります(相続開始から譲渡までの利用状況の確認が必要)。国税庁
  8. 関係者取引の制限
    親族や特別な関係者への譲渡、極端に低い価格での譲渡は対象外です。通常の市場価格・第三者への売却が前提です。
  9. 除却・耐震改修ルール(売主/買主の工事)
    令和6年1月1日以降は、**買主が譲渡後に除却または耐震改修を行う場合(買主が翌年2月15日までに実施)**も適用対象に含まれるようルールが緩和されています。売主が先に解体しなくても適用できるケースが増えていますが、適用要件の確認は必須です。国土交通省+1

よくある質問(Q&A形式)

Q1. 「マンションの一室は対象になりますか?」

A1. いいえ。区分所有建物(マンション等)は対象外です。必ず登記事項証明書で確認してください。

Q2. 「相続してから貸していた期間があるとダメですか?」

A2. 相続後に事業用や貸付に供した場合、その期間や状況によって適用対象外となることがあります。利用状況の記録が重要です。

Q3. 「相続人が3人以上なら適用額が減るって本当?」

A3. はい。令和6年1月1日以後の譲渡について、相続人が3人以上の場合は控除上限が2,000万円になります(それ以前の譲渡は条件が異なります)。

Q4. 「売却代金が1億円を超えたら?」

A4. 特例の適用外です。事前に査定で価格帯を確認し、1億円以下かチェックしてください。


何をいつ、誰に頼むか(現実的アクションプラン)

今日やること(即対応)

1〜4週間でやること

  • 測量・簡易診断(解体費見積もり含む)を依頼。
  • 相続人間で遺産分割方針を決め、必要なら専門家(司法書士)に相談。

1〜3ヶ月でやること

  • 売却(媒介)準備、査定、広告出し。
  • 売買契約書に「買主が譲渡後に除却/改修する」条項を入れる場合は、工事期日・証拠の取り決めを明記する。

税務手続き(譲渡後)

  • 譲渡した年の翌年の確定申告で必要書類を添付して申告する(自治体の確認書・売買契約書・工事証明等)。

参考(主要な根拠・解説)


まとめ

ここまで、相続した空き家を一定期間内に売却することで得られる税制上の特典「相続空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」と、その適用を受けるための重要な要件について詳しく解説してきました。

思い出の詰まった実家を手放すことは、心に様々な感情をもたらすかもしれません。しかし、現実的な視点で見れば、空き家の維持管理には費用と労力がかかり、放置すれば老朽化が進むことになります。

そんな中、この特別控除は、売却という選択肢を考える上で、非常に大きなメリットとなります。

最大3,000万円の控除は、譲渡所得にかかる税金を大幅に軽減し、あなたの手元に残る資金を大きく左右する可能性があります。

ただし、この特典を受けるためには、売却期間、建物の条件、売却の相手方や金額など、複数の重要な要件を満たす必要があります。

特に、売却期間については、原則として相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限があるため、注意が必要です。

関連記事:【期限切れにご注意!】相続した実家、売却を先延ばしにするといくら損する?

今回の記事を読んで、ご自身の状況がこの特別控除の対象となる可能性があると感じたなら、ぜひ最初の一歩として、私たちにご相談くださいね

関連記事

  1. 松戸市の人口の高齢化と2040年問題|65歳以上が多数派になる未来

  2. 不動産の売却後トラブルを防ぐ「契約不適合責任と免責」の実践ガイド

  3. まっとう式・家の整理 第5話: 不動産売却の流れをやさしく解説【後編】…

  4. 「このままでいいのか?」に潜む“must思考”──50代からの仕事と空…

  5. 引渡し後のクレームを防ぐ!売主が準備すべき2種類の書類と怠ったときのリ…

  6. 松戸版 空き家・実家売却マニュアル──方法・契約・費用・相場・書類まで…

  7. 築40年マンションの建て替え|負動産化を防ぐ3つの選択肢

  8. 古家付きvs解体・更地──結局どっちで売るのがトク?プロが本音で解説し…

PAGE TOP