親から、

そろそろ実家の名義をあなたにしておこうと思って…
と親御さんから持ちかけられたら、どうしますか?
もし何も考えずにそのまま名義変更してしまうと、贈与税や将来のトラブルの原因となり、思わぬ負担を負うことがあります。
本記事では、子ども(受け取る側)の立場で「生前贈与」と「相続」を税金や手続き、将来のリスクの観点からわかりやすく解説します。まずはここだけ押さえましょう。
目次
不動産の名義を変えると、何が起こるのか

名義を子どもに変えたら安心
──そう思っている親御さんは意外と多いものです。
たしかに、登記上の名義を子であるあなたに移せば、親としてはこれで一安心、役目が済んだと思うかもしれません。
しかしこれは、名義変更の瞬間に「贈与」という税務上の行為が発生していることになるのです。
つまり、
登記簿の名義を動かすだけで、税金の世界では「財産をもらった」とみなされる。
そしてその行為には、もらった側に次のような費用や制約が生じます。
贈与でどんな費用や制約が生じるのか
- 登録免許税
名義を移すには、登録免許税(固定資産税評価額の2%)がかかります。
相続のときは0.4%ですから、贈与のほうが5倍の税率です。
なお、名義変更に関わる税金(登録免許税・不動産取得税)については、こちらの記事もあわせて読むと全体像がつかみやすいでしょう。
👉 空き家の固定資産税が6倍になるって本当?住宅用地特例の仕組みを解説
- 不動産取得税
名義をもらう側(子ども)に課税されます。
これも相続ではかかりません。
- 贈与税
子どもが親から無償で不動産を渡す行為そのものが、贈与税の対象。
課税評価額が高いほど、税率も急激に上がります(最大55%)。
- 住宅ローンが残っている場合
親名義のローンがある不動産を子どもに名義変更するには、金融機関の承諾が必要です。
多くの場合、「債務者が変わる=契約の組み直し」扱いとなり、実務的にはほぼ不可能です。
- 登記費用と手続きの煩雑さ
司法書士への依頼費用も発生しますし、登記簿・印鑑証明・評価証明など、準備すべき書類も多くなります。
名義変更は「単なる書類の更新」ではなく、**税金・登記・ローン契約が連動する“総合イベント”**です。
これを理解せずに進めてしまうと、「思っていたよりお金がかかった」「金融機関に止められた」という事態になります。。
名義を変える前に、「なぜ変えるのか」「どんな効果があるのか」を整理する。
ここが“まっとうな判断”の第一歩です。
贈与税の課税方式の整理
子どもであるあなたが不動産を親から「生前贈与」される場合、税金の計算方法には大きく分けて2つの方式があります。
それが「暦年課税」と「相続時精算課税」です。
それぞれの特徴を押さえておきましょう。
- 暦年課税制度
1年間(1月1日~12月31日)のあいだに、もらった財産の合計額に応じて課税される方式です。
基礎控除が110万円あり、それ以下なら申告不要。
毎年少しずつ贈与されれば。税負担を抑えながら財産を移すことも可能です。
たとえば、親から毎年110万円ずつ贈与を受ければ、10年間で1,100万円を“合法的に非課税”で移せます。
この方法をうまく使えば、時間を味方につけた相続対策になります。
ただし注意点もあります。
「形式だけの贈与」と判断されると非課税が認められません。
・通帳や印鑑が親の管理下にある
・贈与契約書がない
・毎年同じ日に同額を渡している
などの場合、税務署から“実態のない贈与”とみなされるおそれがあります。
暦年贈与を使うなら、「贈与契約書」と「資金の移動記録」をきちんと残す。
それが“あとで揉めないための最低限の備え”です。
- 相続時精算課税制度
もう一つが「相続時精算課税」。
相続時精算課税は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選択でき、毎年110万円の基礎控除(申告不要)がります。さらに累計2,500万円までの特別控除を使えますが、一度選ぶと暦年課税に戻せない点に注意が必要です。
また、将来の相続時には、「過去に贈与を受けた分」もすべて相続財産に合算されて課税されます。
つまり、“先に払うか、あとでまとめて払うか”の違いにすぎません。
この制度は、子ども側が「今現金が必要だから早めに支援を受けたい」など、明確な目的がある場合に向いています。
節税よりも、資金移動のタイミングを早めたいときの制度と考えましょう。
実家をもらうなら、生前贈与と相続どちらがいいか?
結論から言えば、多くのケースで相続が有利になりやすいです。
(ただし、都市部の地価動向や資産構成によっては贈与が有利に転ぶ場合もあります。)
理由は大きく3つあります。
生前贈与と税金との税負担比較
不動産を生前贈与で受け取る場合、贈与税だけでなく「登録免許税」や「不動産取得税」も課税されます。
どちらも相続より税率が高く、合計で数十万~百万円単位の差になることもあります。
| 税目 | 生前贈与 | 相続 | 
|---|---|---|
| 贈与税/相続税 | 贈与税あり(累進課税) | 相続税の対象(贈与税はなし) | 
| 登録免許税 | 2%(固定資産税評価額×2%) | 0.4%(相続登記) | 
| 不動産取得税 | 約3%(自治体により変動) | 非課税 | 
たとえば、評価額2,000万円の親の不動産を子どもに移すケースを考えてみましょう。
生前贈与の場合、登録免許税だけで40万円、不動産取得税が約60万円。
さらに贈与税(課税価格に応じて最大55%)が上乗せされる可能性もあります。
一方、相続では不動産取得税はかかりません。
登録免許税も0.4%、同じ評価額2,000万円なら約8万円です。
このように、相続と生前贈与では名義を変えるだけで税負担に大きな差が生じます。
思い立って動く前に、「どの税目が、どれだけ違うのか」を理解しておくことが大切です。
評価額が下がるのはどっち?
もうひとつ、相続のほうが有利になりやすい理由があります。
それは、不動産の評価額が時間とともに下がる傾向にあり、評価額が下がれば税負担も軽くなるという点です。
相続税は、相続が発生した時点──つまり「親が亡くなったときの評価額」で計算されます。
建物は年数が経つほど価値が下がり、土地の価格も市況や需要によって変動します。
いま2,000万円の評価でも、10年後には1,600万円、1,400万円と下がることも珍しくありません。
結果として、同じ不動産でも、後になって相続したほうが課税額は少なくなるのです。
もちろん、地価が上昇する地域では逆のケースもあります。
ただ、全国的には人口減少・空き家の増加・高齢化の進行によって住宅地の価格が横ばい~下落傾向にあるため、
特に地方や郊外の住宅では「時間が節税につながる」ことが多いのが現実です。
“今”よりも“相続のとき”のほうが、評価が低い可能性がある。
つまり、待つこと自体が節税になる場合もあるのです。
親の存命中にできる対策とは?
相続のほうが税負担の面で有利とはいえ、「何もしないで待つ」のが最善とは限りません。
相続を前提にしながら、親の存命中に少しずつ財産を受け取っておく方法があります。
それが、暦年贈与(1年あたり110万円まで非課税)の活用です。
たとえば、毎年110万円ずつを10年間続ければ、合計で1,100万円を非課税でもらうことができます。
不動産そのものの贈与を受けなくても、預金など流動資産をうまく使えば、将来の相続税対策として大きな効果があります。
一気にもらうのではなく、“時間を味方につけて減らす”。
それが、もっとも現実的でトラブルの少ない贈与のかたちです。
ただし注意点もあります。
税務署に否認されないよう、「贈与契約書」や「振込記録」など、“実際に受領した”証拠を残しておくことが大切です。
通帳が親の手元にあったり、印鑑が共用されていたりすると、「名義だけの贈与」と判断されて課税されるおそれがあります。
このように、暦年贈与を上手に使えば、相続を見据えながら少しずつ負担を減らす“地ならし”が可能です。
思い立ったときに、できる範囲で動く。
それだけでも、将来の家族の負担は大きく違ってきます。
生前贈与が向いている場合とは?
ここまで見てきたように、税金面だけを比べれば、多くの場合「相続」のほうが有利です。
それでも、生前贈与を選ぶほうが現実的なケースもあります。
理由は、税金ではなく“人間関係”や“リスク回避”にあります。
- 相続で揉めそうな場合
相続人が複数いて、将来の分け方で揉める可能性があるなら、親が元気なうちに“自分の意思で分けておく”というのは有効な手段です。
親側が、誰に、何を、どのように渡すかを明確にしておけば、あとで相続人どうしでの対立を減らすことができます。
- 親が特定の人に不動産を渡したい場合
たとえば、介護を担ってくれた子どもや、同居して家を守ってくれている家族に報いたいという想い。
相続では「法定相続分」という枠に縛られますが、生前贈与なら、意図した相手に確実に財産を残すことができます。
- 親の認知症リスクに備えたい場合
贈与は、渡す側が「意思判断ができる状態」であることが前提です。
もし親が認知症を発症すると、名義変更も贈与契約もできなくなります。
この状態を“財産の凍結”と呼びます。
元気なうちに生前贈与で名義を整理しておけば、親の判断能力の低下によって手続きが止まるリスクは避けられます。
生前贈与は、税金面では不利でも、「家族関係を守る」「想いを形にする」という観点では有効な選択肢です。
ただし、やり方を間違えると税負担が大きくなったり、“つもり贈与”と判断されて課税されることもあります。
※本記事の内容は、一般的な制度や税制の概要を説明したものであり、
個別の税務判断・申告内容については、必ず税理士など専門家にご確認ください。
家族信託を使う場合は?
最近、「家族信託(民事信託)」という言葉を耳にすることが増えてきました。
これは、親がまだ元気なうちに、将来の判断力低下(認知症など)に備えて子どもに不動産の管理や処分を任せておく契約のことです。
登記上は名義が子ども(受託者)に移りますが、実際の所有権は親(委託者)に残ったまま──つまり、**“名義は移るが、所有は移らない”**という仕組みになっています。
税務上の扱いはどうなる?
信託契約で名義を子どもに移しても、贈与税はかかりません。(原則。設計次第で税務リスクは残る場合があり)
なぜなら、所有権そのものはまだ親にあるとみなされるからです。
また、信託期間中に不動産から得た賃料などの収益も、課税対象は親(委託者)です。
つまり、税務上は「まだ親の財産」という扱いが続きます。
そして親が亡くなった時点で、信託財産として相続税の課税対象になります。
したがって、税金面では「贈与でも相続でもないが、最終的には相続課税に含まれる」と考えておくとわかりやすいでしょう。
名義を移しても“贈与ではない”、
でも“相続のときには課税される”。
これが家族信託の基本構造です。
メリット・デメリットと注意点は?
- メリット
・親が認知症になっても、子どもが代わりに売却・管理できる
・家庭裁判所を通さずに柔軟な財産管理ができる
・遺言や成年後見制度では難しい「生前から死後までの一貫した管理」が可能
つまり、“財産を凍結させない”ための仕組みです。
親が認知症となった場合、子ども側で実家を売却できるようにしておく、というのはとても大きいことです。施設入居等では多額の資金が必要になりますからね。
もし事前に何も準備をしていない場合、実家を売却するには、成年後見人を付け、裁判所の許可が必要になります。この手続きたるや非常に面倒で大変です。そもそも売却が認められる保証もありません。
なので、財産を凍結させない仕組みを整えておくことが、大事なのです。
- デメリット・注意点
・信託登記に登録免許税(土地0.3%/建物0.4%の目安)がかかる(受託者への所有権移転自体は非課税)
・信託契約書の作成や登記に専門家の関与が必要(司法書士など)
・信託内容の設計を誤ると、後で処分や変更が難しくなる
家族信託は、贈与でも相続でもない「預ける」選択肢。
親の判断力があるうちに契約しておけば、後から名義変更ができずに立ち往生するような事態を避けることができます。
“動けるうちに準備しておく”
それが、財産を守るいちばんのリスク回避策です。
●●が“税金以上のリスク”になる
ここまで見てきたように、税金や制度の面では「どの方法が有利か」を整理することができます。
しかし、実際の現場では、もうひとつ避けて通れない問題があります。
それが、“感情のこじれ”によるトラブルです。

思い出があるから、手放したくない

親の家をどうするかなんて、まだ考えたくない
そんな気持ちが、話し合いを先送りにしてしまう。
けれど、その間にも家は老朽化し、いざ相続が発生したときには、誰も住めず、誰も決められず、固定資産税だけがかかり続ける──
そんな現実が少なくありません。
感情の整理を後回しにすると、結果的に“税金より重い負担”を残すことになる。
不動産の整理は、決して冷たい行為ではありません。
**「想いを次につなぐための現実的な選択」**です。
加えて、もうひとつ冷静に見ておきたい現実があります。
近い将来、人口減少と相続の増加が重なり、全国的に「不動産を手放したい人」が急増するはずです。
売却希望者が増えれば、当然ながら需給のバランスは崩れます。
“売りたい人ばかりで、買う人がいない”──そんな時代がやってくる可能性が高い。
これはあくまで私個人の見解ですが、そうした未来を考えれば、「動くなら今じゃないか」と思うのです。
できるうちに整理しておくこと。
それが、家族にも、自分自身にもいちばん優しい選択です。
親が孫に相続させたい場合はどうしたらいい?

自分の子どもはもう家を持っているし、
次の世代──孫にこの家を引き継がせたい
そう考えている親御さん(祖父母)も少なくありません。
しかし、結論から言えば、原則として孫には相続権がありません。
相続の順位に孫は含まれていないため、祖父母が亡くなっても、自動的に孫に財産が渡ることはないのです。
ただし、方法がまったくないわけではありません。
目的や状況に応じて、いくつかの手段があります。
- 子が相続し、孫に贈与する
いったん子どもが相続し、その後に孫へ贈与する方法です。
この場合、名義変更の費用(登録免許税など)が2回分かかります。
また、孫への贈与に贈与税が発生する点にも注意が必要です。
- 遺言で「遺贈」する
祖父母が遺言書で「孫に遺贈する」と定める方法です。
「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載する点がポイント。
ただし、他の相続人の“遺留分”を侵害すると、トラブルになるおそれがあります。
また、遺贈による名義変更の登録免許税は、**相続の5倍(2%)**となります。
- 養子縁組をする
祖父母が孫を養子にすることで、法的に「親子」となり、孫は正式な相続人に加わります。
ただし、養子が相続人になるというだけで、自動的に不動産がもらえるわけではありません。
他の相続人との調整が必要です。
- 代襲相続(特殊ケース)
祖父母(親)よりも先に、子ども(=孫の親)が亡くなっている場合、孫が「代襲相続人」として相続権を持ちます。
この場合のみ、孫が直接財産を受け取ることが可能です。
- 生前贈与する
祖父母(親)が存命中に、孫へ直接不動産を贈与する方法です。
ただし、この場合は贈与税の負担が非常に重くなります。
評価額が高いほど税率も上がるため、“かわいい孫に家を残したい”という想いが、結果的に大きな税負担を強いることになる場合もあります。
感情としては理解できる話でも、制度の上では複雑で、コストも高くつくのが現実です。
そして多くの場合、それは“孫のため”というより、祖父母(親)の一方的な想いなのです。
孫がその家を本当に必要としているのか、将来どこに住むのかも、まだわかりません。
“思い出を残したい”という気持ちが、次の世代にとって“重荷”になってしまうこともあります。
「想い」だけで動くと、あとで手続きや税金の壁にぶつかってしまいます。
残すのは“家”より、“想い”。
無理に形を残すよりも、家族が納得できる形で整理することが、本当の意味での「相続」なのかもしれません。
想いと現実のバランスをどう取ればいい?
不動産をどう残すか、どう手放すか。
それは、単にお金や制度の問題ではなく、気持ちの整理の問題でもあります。
「親の家だから」「思い出があるから」
そうした感情はとても自然なことです。
けれど、その想いが強すぎると、現実の判断を先送りしてしまうことがあります。
たとえば、名義を変えないまま放置したり、使わない家を「いつか使うかも」と持ち続けたり。
その“いつか”は、たいてい来ません。いや、ほぼ100%来ないでしょう。
想いに寄りすぎると、現実が止まる。
現実ばかり見ると、想いが置き去りになる。
大事なのは、そのちょうど真ん中です。
想いを尊重しながら、現実を見据えて決めること。
「どちらか」ではなく、「どちらも」見て動く。
それが、家族にとっても自分にとってもいちばん優しい選択です。
このバランスを取るには、「今」考え始めることが何より大切です。
判断できるうちに、選べるうちに。
その一歩が、後悔のない整理につながります。
まとめ:選べるうちに動く
相続と生前贈与、どちらがいいか。
それは一概には言えません。
けれど確かなのは、「選べるうちに動けるかどうか」が結果を大きく変えるということです。
税金や制度の違いは、あとから学べば取り戻せます。
でも、親が判断できる時間、子が相談できる時間は、戻ってきません。
“まだ大丈夫”と思っている今こそ、動くチャンスです。
不動産の名義、家族の意向、そして気持ちの整理。
どれも放っておけば複雑になり、いずれは誰かの負担になります。
動けば変えられる。その一歩を、今、踏み出してください。
松戸市で相続や生前贈与、不動産の整理についてお悩みの方は、登記・税金・解体・売却・信託まで、まっとうが一貫してサポートします。
判断できるうちに、選べるうちに。
あなたの“まっとう”を、私たちが伴走します。
不動産の整理や売却を現実的に進めたい方は、こちらのページもご覧ください。
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