資産整理

買主とトラブルにならないための土地売却契約書の作成方法

契約書のことは不動産会社に任せてるから大丈夫

そう思っている方は、少し危険かもしれません。

なぜなら、契約の責任を負うのは、“書いた人”ではなく、“署名した人”だからです。

境界・私道・越境・地中物など、土地特有のリスクを見落としたまま契約してしまうと、後で思わぬ請求や損害賠償に発展することもあります。

こうしたトラブルは、売主自身が不動産会社に「任せっきり」で、言われるがまま「サインしてしまった」ことが原因となります。

この記事では、そうしたトラブルを未然に防ぎ、「安心して売れる契約書」を作るための実務ステップを解説します。

契約内容を明確にし、買主はたまた仲介する不動産会社と揉めないための具体的なポイントを知ることで、売主としてのリスクを大幅に減らすことができます。


なぜ、トラブルが起きるのか

トラブルの大半は「売主の説明不足」と「不適切な売買契約書(ひな型の流用・条項の欠落)」が原因です。

特に土地は、建物以上に売主しか知りえないような個別事情(境界・私道・越境・埋設物・高低差・地役権・上下水・ガス・井戸・農地転用 等)の影響が大きいのです。

これらをきちんと事前に洗い出し、書面で説明・合意・証跡化できていないと、後で揉めてしまいます。


よくある5つのトラブルと具体例

契約後に売買代金を受け取れなくなる

具体例:買主の住宅ローンが不承認。融資特約の期限や条件が曖昧で、買主側に準備不足があっても無条件解除され、内金返還・機会損失だけ残る。
対策要点:融資特約は「申込期限・本審査期限・必要書類提出義務・金融機関の合理的選定・買主過失時は違約」を明記。

契約後に追加の請求を受ける

具体例:地中から古い基礎・廃材が出土。契約書に地中埋設物の扱いがなく、買主から撤去費用を請求される。
対策要点:地中埋設物の調査範囲と負担分岐点(上限額・買主負担の閾値)を条文化。

契約後に代金減額を求められる

具体例:私道掘削承諾が未取得のまま契約。引渡し直前で承諾不可となり、買主が「給水管更新不可」を理由に減額交渉。
対策要点:承諾取得を停止条件(未達なら白紙解除)に。代替案(露出管・別経路)の可否も先に提示。

契約後に解除される

具体例:越境樹木・ブロックの是正方法が曖昧。「引渡しまでに解消」としか書かず、隣地協力が得られず不履行扱いで解除。
対策要点:是正方法・主体・期限・代替措置(越境承諾書に切替)の選択肢と、未達時の帰結(解除 or 代金調整不可)を明記。

代金受領後に損害賠償を提起される

具体例:宅地内に旧井戸・浄化槽が残置。引渡し後に沈下や悪臭が生じ、買主が損害賠償請求。
対策要点:現地確認結果の記録・販売図への明記・重要事項説明への反映・買主確認書の取得・契約不適合責任の範囲と期間を限定。


トラブルを防ぐ5つのステップ

問題点の徹底調査

具体的な調査例
・筆界確認(既存測量図精査→必要に応じて現況測量・立会、不参加記録の保全)
・道路種別・セットバック要否・接道長確認
・私道の権利関係(持分・通行掘削承諾の要否と実績)
・越境(樹木・庇・塀・基礎・排水)と是正の現実性
・上下水・ガス引込位置/口径・枡の有無・前面本管状況
・高低差/擁壁の所有・適法性・やり替え要否
・地中物・旧井戸・浄化槽・廃材の可能性(試掘や探査を検討)
・土壌汚染リスク(履歴・用途。必要ならスクリーニング)
・地役権・農地転用・文化財包蔵地 等の法令調査

成果物は写真・図面・役所回答メモ・問い合わせ記録をセットで保管しましょう。
「事実の証拠」を積むことが後工程の命綱になります。

販売図に「問題点と売却条件」を詳細記載

販売図=事前説明書であって、単なる広告チラシではありません。
「合意形成ツール」として捉えましょう。

盛り込む項目例
・地積/境界標の有無/筆界確認の状況
・接道状況(種別・幅員・セットバック量)
・私道の権利・通行掘削承諾の取得要否と現況
・上下水・ガスの引込実測図(自記+写真)
・越境の有無と是正方針(切戻し/承諾書)
・高低差・擁壁の状態/所有/適法性の見解
・地中物・井戸・浄化槽の既知情報と取り扱い方針
・本物件の売却条件一覧(停止条件・猶予・買主負担範囲)

ページ下部に「本資料は売買契約の前提となる重要説明資料であり、売買契約書・重要事項説明書に反映します」と明記しておけばより安心です。

買主への事前口頭説明と記録化

販売図を用い、論点ごとに「事実→影響→方針」を説明します。
買主質問は要旨を議事メモ化し、双方サインで保存。こうしておけば後日の「言った言わない」を防げます。

重要事項説明での反映

仲介が作成する重説の素案段階で、販売図の記載を完全移植する方針を共有。
不足があれば追記を依頼しましょう。
「販売図・重説・契約書」の三点整合を崩さないようにしましょう。

契約書で「理解・承諾済み」を条文化

本体条項+別紙(販売図・写真・図面・買主確認書)を一体化させる(整合性を持たせる)ようにします。

(例)
・境界/接道/SB量が三書類で一致
・私道の権利と承諾の要否・取得時期が一致
・越境の有無と是正方法が一致(切戻し or 承諾書)
・上下水・ガス位置図が添付され同一
・地中物・井戸・浄化槽の扱いが一致(上限額・期間)
・高低差・擁壁の扱いが一致(適法性の見解・負担)
・土壌・用途制限等の告知が一致
・停止条件/解除権/違約金のトリガーが一致
・優先順位(本文>別紙)を明記
・買主質問への回答メモを「買主確認書」として添付

注意を払って一体化しておいても、差異が生じる可能性もあります。
その場合の優先順位(契約書本文>別紙)を明確にしておくと安心です。

また、各論点に対応する条文を入れ、期間・上限・帰結まで数値で閉じておくようにします。
(例)
・期限は日付・時刻まで、費用は上限と閾値を明記
・「軽微」「相当」など曖昧語を避け、cm・m・万円で規定


契約不適合責任免責を「活かす」ための現場運用

契約不適合責任の免責はオールマイティな“免罪符”ではありません。
「十分な説明と記録を経てこそ、初めて機能する安全装置」です。

つまり、
・調査を怠らず、
・販売図と別紙で事実を共有し、
・理解・承諾の記録を残すこと。

この3点を徹底すれば、たとえ免責条項を付けていても“誠実な取引の証拠”として売主を守る力になります。

関連記事:不動産の売却後トラブルを防ぐ「契約不適合責任と免責」の実践ガイド


安全に売却したい売主さまへ

当社の代表は、大手金融系上場企業において、事業投資の審査・契約交渉・リスク管理を長年担当してきました。

現場で培った「リスクの勘所」を基に、不動産取引で起こりがちな見落としを先回りして潰していきます。
率直に言えば、不動産業界には“契約の中身が曖昧なまま進めてしまう”実務も少なくありません。

売主としてトラブルなく安全に売却を完了させたい方は、当社へご相談ください。

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