資産整理

引渡し後のクレームを防ぐ!売主が準備すべき2種類の書類と怠ったときのリスク

無事に引渡しも終わり、「これで一段落」とホッとした頃に、買主から突然の連絡——。

「建物が傾いている」
「隣地から越境物を撤去してほしいと言われた」
「過去に大雨で浸水被害があったと近所の人から初めて聞いた」

こんな話、決して他人ごとではありません。

しかも、たとえ“知らなかった”としても、あるいは“うっかり忘れていた”としても、売主が責任を問われることがあります。

実際、引渡し後のトラブルの多くは、売主の説明不足が原因です。

ですが、たった2種類の書類を整えておくだけで、こうしたクレームや請求のほとんどは防ぐことができます。

この記事では、国交省が推奨する「物件状況報告書」と「付帯設備表」について、売主の立場から“現場で役立つ視点”でわかりやすく解説します。

最後まで読めば、どんな項目をどう書けばいいのかが具体的にわかり、引渡し後に“言った・言わない”でもめるリスクを確実に減らせます。


なぜ、契約書と重説だけでは不十分なのか

多くの売主が、「契約書と重要事項説明書があれば十分」と考えています。
しかし実際には、それだけでは買主にとって本当に知りたい情報が伝わりません。

契約書や重説に書かれているのは、

・登記情報
・面積や用途地域などの法的条件
・引渡しや代金の取り決め

といった“形式的な内容”が中心です。

一方で、買主が気にするのはもっと身近で具体的なことです。

「雨漏りして補修したことがある」
「数年前にボヤがあった」
「ブロック塀について隣地と揉めている」
「町内でごみ出しや駐車に関する独自の取り決めがある」

こうした“現場のリアルな情報”は、住んでいた本人(売主)にしか分かりません。

つまり、契約書と重説だけでは「法律上の条件」は説明できても、「生活の実態」までは伝えきれないのです。

だからこそ、国土交通省は売主による書面での告知(物件状況報告書・付帯設備表)を強く推奨しています。
これは“余分な書類”ではなく、引渡し後の後悔を防ぐための保険のようなものです。


「物件状況報告書」とは?書く目的と意味を知る

「物件状況報告書」とは、売主が自分の知る範囲で物件の状態や過去の経過、近隣との関係などを記入する書面です。

これは、契約書や重要事項説明書だけでは伝わらない“現場の情報”を買主に知らせるためのもの。

法律上は義務ではありませんが、国土交通省も作成を強く推奨しており、いまや実務上はほぼ必須の扱いです。

この書面の目的は大きく二つあります。

  1. 買主の判断材料を明確にすること
     → 雨漏り・修繕歴・設備の状態などを正直に開示し、
      その状態を理解したうえで購入判断をしてもらうため。
  2. 将来のトラブルを防ぐこと
     → 引渡し後に「聞いていない」「知らなかった」と言われないよう、
      売主が知っている事実をあらかじめ書面で残しておく。

この書類は、買主に安心を与えると同時に、売主自身を守る“証拠”にもなります。


付帯設備表とは?売主が見落としがちな“動くリスク”

もう一つの書類が、「付帯設備表」です。

こちらは、建物に備え付けられた設備や備品――
たとえばエアコン、給湯器、照明、換気扇、インターホンなど――の動作状況や不具合の有無を一覧にまとめるものです。

契約書や重説には、これらの設備が「動くかどうか」までは書かれていません。

しかし、引渡し後に「お湯が出ない」「エアコンが壊れていた」と言われるトラブルは少なくありません。

そして、もし設備表に何も書かれていなければ、「正常に動作していたはず」と解釈され、修理費用を請求されることもあります。

つまり、付帯設備表は「動作の可否」を明確にして、“引渡し時の状態”を証拠として残すための書面です。

売主がすべきことは難しくありません。
・使っている設備を一つずつ確認する
・壊れている、調子が悪い場合はその旨を記入する
・不明なものは「未確認」としておく

この3点を徹底するだけで、「言った・言わない」の争いはほとんど防げます。

「付帯設備表」は一見ささいに思えるかもしれませんが、実は契約不適合責任(=売主が負う修理・損害賠償のリスク)を左右する書類です。

“動くかどうか”の確認を怠るだけで、後になって大きな出費につながることもあるのです。


物件状況報告書に何を書くのか(具体的な記載項目と考え方)

物件状況報告書に書くべきことを一言でいえば、「買主にとって不利益なこと」です。

言いにくいことほど正直に書いておく。

それが、引渡し後のトラブルを防ぐいちばん確実な方法です。
「書かない」「あいまいにする」ほど、“隠していた”と見なされるおそれがあります。

土地の場合

・境界が確定しているかどうか
・塀や樹木、屋根などの越境の有無
・ブロック塀や擁壁の所有者
・第三者の配管や通行に関する承諾の有無
・土地の浸水履歴や地盤の軟弱性
・地中の埋設物(古い基礎、廃材など)
・火災や事件・事故の履歴
・町内や隣組での取り決め、使用上のルール
・周辺の嫌悪施設(工場、墓地など)の存在 → 境界・地盤・近隣関係など、“目に見えにくいリスク”を開示することが目的です

建物(戸建)の場合

・新築・増改築・リフォームの履歴
・雨漏りや補修の経過
・シロアリ被害や防蟻処理の有無
・アスベスト(石綿)の使用有無
・床の傾きや構造上の問題
・耐震診断の有無
・過去の所有者や利用状況

→ 経年劣化や構造上の不具合、健康被害リスクなど、 買主が後で「聞いていなかった」と感じる部分を前もって説明しておくことが重要です。

区分マンションの場合

マンションでは、土地や建物と違い、専有部分(自分の部屋)と共有部分(廊下・配管・屋上など)が分かれています。

専有部分

・水漏れや排水の不具合
・結露やカビの発生状況
・リフォームや補修の履歴
・給湯器・エアコンなどの設備の動作状況
・バルコニーでの使用上のトラブル(物干し・喫煙など)

共有部分

・管理組合でのトラブルや訴訟
・大規模修繕工事の予定や実施履歴
・管理費や修繕積立金の滞納の有無
・共用配管やエレベーターの故障履歴
・近隣住戸との騒音・臭気などのトラブル → 専有部分の状態だけでなく、
 管理組合の運営状況や修繕計画も“物件の一部”として重要です。
 理事会議事録や長期修繕計画書の写しなどを提示できると、買主の安心につながります。


付帯設備表に何を書くのか

付帯設備表は、建物に備え付けられた設備の動作確認リストです。

・給湯器、エアコン、照明、換気扇、インターホンなどを一つずつ点検
・正常に動くか、不具合があるか、使用不可かを明記
・残す設備と撤去する設備を明確にする

もし設備表に何も書かれていなければ、「すべて正常に動作していた」と解釈される場合があります。
つまり、「書かなかった」ことが「保証した」ことになってしまうのです。


「知らない」と書く前にすべきこと

確かに「不明」「確認していない」と書くことはできます。
しかし、それでは“誠実な開示”とはいえません。

境界や地盤、雨漏りなど自分では判断できない部分こそ、
専門家に調査を依頼することが最も確実で安全です。

・測量士による境界確定調査
・建築士による雨漏り・構造調査
・シロアリ業者による防蟻点検
・地盤調査や埋設物調査

こうした調査結果をもとに報告書を作成しておけば、
“説明済み”としての裏付けになります。


“知らない”では済まされない。正しい調査と備え

「そんなこと、知らなかった」「昔のことだから覚えていない」――。

悪意がなくても、そう言って済まされないのが不動産取引です。
売主が“知り得たはず”と判断されれば、結果的に説明義務違反になることもあります。

だからこそ、記憶や感覚に頼らず、客観的な資料や記録を整理しておくことが重要です。

まずは「手元にある資料」を整理する

新たに調査をする前に、まず以下の資料を確認します。
これらはどれも、売主の説明を裏づける“一次資料”になります。

・建物の新築時の図面・確認済証・検査済証
・増改築やリフォーム時の見積書・契約書・保証書
・定期調査報告や維持管理に関する資料
・住宅性能評価や長期優良住宅の認定書
・耐震診断・耐震補強に関する資料
・住宅瑕疵保険(既存住宅売買瑕疵保険など)の付保証明書
・修繕履歴・修繕報告書
・石綿(アスベスト)使用に関する調査報告書
・前所有者から引き継いだ書類や写真

これらがあれば、**「説明済みの根拠」**として強い証拠になります。
書面で提示できれば、買主の安心感も大きく高まります。

必要に応じて専門家調査を検討する

資料がない、あるいは状況が不明な場合には、専門家調査を検討します。

・建物状況調査(インスペクション)
 → 建築士による雨漏り・構造・配管などのチェック。
 費用は10〜15万円前後が一般的で、報告書は“客観的な説明資料”として非常に有効。

・境界確定調査(測量士)
 → 境界標が不明、隣地と塀の位置が曖昧、越境の疑いがあるなど、トラブルの火種がある場合には実施価値が高い。

これらを実施すれば、「確認可能なことは確認した」という立証ができます。
後々「知らなかった」「説明を怠った」と言われるリスクを大きく減らせます。

最低限やっておくべき確認

・付帯設備の動作確認(給湯器・エアコン・照明・換気扇など)
・過去の修繕履歴や保証書の確認
・マンションであれば、管理組合資料(長期修繕計画・議事録など)の確認

これだけでも、実際のトラブルはほとんど防げます。
特に「お湯が出ない」「エアコンが動かない」といった事後クレームは、この一手間で防げるケースが多いのです。


まとめ:2種類の書類は“売主を守る盾”

物件を引き渡したあと、思いがけない連絡が入る。

「お湯が出ない」「傾いている」「越境しているらしい」――。
そうしたトラブルの多くは、“書いていなかった”ことが原因です。

契約書や重説では、家の「法的な情報」は説明できます。

しかし、そこで抜け落ちているのが「実際の暮らしの情報」。
雨漏り・修繕歴・境界・設備・近隣との関係――
こうした“リアル”を伝えるのが、物件状況報告書と付帯設備表の役割です。

2種類の書類を整えることで、次の二つが得られます。

  1. 買主に安心を与えられる
     → 事前にリスクを共有することで、価格交渉や信頼形成がスムーズになる。
  2. 売主自身のリスクを減らせる
     → 契約不適合責任の追及を避けられ、
      「説明済み」として堂々と取引を終えられる。

つまりこの書類は、買主のためだけでなく、売主の身を守る“盾”であり、取引を円満に終えるための最後の防波堤です。

売却の準備を進めるときは、「どんな資料をどう残すか」から始めてください。
それが、後悔のない取引へのいちばんの近道です。


当社がお手伝いできること

まっとう式では、物件状況報告書や設備表の作成サポートを通じて、「売ったあとも安心できる取引」をお手伝いしています。

売主の立場でリスクを最小化し、買主にも信頼される形で売却を進めたい方は、どうぞ一度ご相談ください。

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