スケベ心満々で芸能オーディションに挑戦! 合格はしたけれど…【後編】

芸能オーディションの受験者にとっての「合格」は、夢への入口。
では、運営者にとっては、どのような意味があるのか。

【前編】では、深くは考えず、興味本位のスケベ心満々で応募し、合格通知を受け取るまでを書きました。前編はこちら:応募から合格通知が届くまで

後編では、会社経営者として、このオーディションの収益構造と、「選ばれた」と感じることで動く人の心理を考えてみます。

この記事を最後まで読んでいただくと、次の5つがわかります。

  • 「選ばれし人」と感じさせる、オーディションの演出とは。
  • 「合格した!」という喜びが、入所や支払いの判断にどう影響するのか。
  • 主催者にとっての「確実性」と受講者にとっての「不確実性」とは。
  • お金や時間を費やした後、なぜ引き返しにくくなるのか。
  • 期待と現実のギャップから生じる「認知的不協和」を、人はどう解消しようとするのか。

私自身も「合格」の文字に浮かれた一人だからこそ、少し冷静になって、オーディションビジネスの仕組みを眺めてみることにしました。

目次

「選ばれし人」と感じさせる演出

合格通知には、「オーディション状況報告」という書類が同封されていました。

応募者総数 :5,780人
受験者数  : 535人
入所者定員 : 169人

169人を応募者総数で割ると、約2.9%です。

「約6,000人の中から選ばれた3%に、自分が入ったのか!」
そう受け止めれば、気分は上がります。

でも、わざわざこんな数字を出してくることに、一体どんな意味があるのか。

私は、報告書を手にした合格者に、
「自分は大勢の応募者の中から選ばれた」
という特別感を抱かせる意図があるのではないか、と私は受け止めました。

さらに、オーディションにおける私の講評まで添えられていました。

個性や感性、声、表現の力を評価し、懸命さにも言及する内容です。
大人になると、こんなふうに自分を褒めてもらう機会は、そう多くありません。

まして、芸能のプロからの評価です。

「ちゃんと自分を見てくれたんだ」
「自分にも、まだ可能性があるんだ」

そう感じれば、自己重要感も高まります。
私も、悪い気はしませんでした。

なんたって、私は会社員時代には、日々激詰めされ、
そのストレスから山手線のホームでゲロってしまったくらいですから。
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会社員時代のパワハラと、その後の投資詐欺の話はこちら
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そして、この講評は、ただ褒めるだけではありません。

基礎力や表現の粗さという課題を指摘しながら、役が合えば力を発揮できる可能性や、今後の成長への期待も示しています。

今の自分を認めてもらい、そのうえで、伸びしろまで示される。

受け取る側としては、「ここで学べば、その可能性を形にできるのかもしれない」と考えたくなります。

数字で「選ばれた自分」を感じ、講評で「認められた自分」を感じる。
その先には、入所という選択肢が用意されています。

受験者の気持ちを高め、入所に前向きになる流れとして見ると、実によくできていると感じました。

「せっかく合格した」が、支払いを後押しする

どストレートに、
「初年度60万円の芸能レッスンを受けませんか」
と勧められて、「はい」と即答する人が、一体どれだけいるだろう。

無料のYouTube動画でもある程度学べてしまうこのご時世。
レッスンの内容だけで、初年度約60万円をポンと支払う人は限られるはず。

ところが、オーディションに合格した後という状況では、意味合いが変わります。

「自分の可能性を、事務所が認めてくれた」
「ここで学べば、夢の舞台へとつながるかもしれない」

レッスンという機能的価値にこうした感情的な価値を乗せることで、人が感じる価値は一気に跳ね上がる。

機能的価値に感情的価値が加わり、レッスンという「単なるサービスの消費」が「選ばれた自分の未来への投資」に見えてきます。

さらに、「せっかく合格した」という気持ちが、人の判断をグラグラと揺さぶってくるのです。

「このサービスを消費したいか」から、
「このチャンスを手放してよいのか」へ。

プロスペクト理論で示される「損失回避」とは、同じ大きさの利益と損失なら、損失の方を強く受け止める傾向です。

合格によってチャンスを「手にした」と感じるからこそ、辞退がそれを「失う」ことに見えてきてしまう。

合格証書は速達で届き、振込期限は受け取ってから約10日後。
「ご不明点はありませんか」と、相談の顔をした営業電話も何度かかかってきました。
※期日の前日にも改めて電話が!「そ~くるのかーΣ(・□・;)」と驚いた提案の内容は文末に。

手にしたチャンスには期限がある。早く決めなければ失ってしまう。
受け手には、そんな圧力もかかります。

私の手元には具体的な契約書が一切ないまま、まずは振り込みを、と急かしてきている構図です。

運営者の「確実性」と、受講者の「不確実性」

受講者は、将来への期待を込めて、まずお金を払います。
運営側は先にそのお金を受け取り、その後にレッスンを提供します。

では、そのレッスンの先はどうでしょうか。

テレビに出演できるのか。
仕事を得て、収入につながるのか。

そこには、何の約束も保証もありません。

運営側が約束するのは、「レッスンを受けられます」というところまで。
「レッスンを受ければ、出演の仕事を得られます」ではないのです。

運営側は、先にお金を受け取り、その先の成果は何も保証しない。

受講者は、先にお金を払い、その先の成果は何も保証されない。
支払いは確実。将来の成果は不確実。

ちなみに、今回の募集に伴う初年度の受取総額も、ざっくり試算してみます。
1人当たり約60万円。入所者定員169人が全員入所し、1年間在籍すれば、合計約1億円です。

もちろん、ここから募集費や講師料、施設費などがかかります。

それでも、同じ規模の募集を毎年複数回行い、翌年以降も月謝というキャッシュフローが安定的に生じることを考えると、なかなかおいしいビジネスなんじゃないかな、と。

お金と時間を費やすほど、引き返しにくくなる仕組み

入所した後、期待した成果につながらなかったら、どうするでしょうか。

「もう初年度に約60万円も払ったし」
「1年も通ったのに、ここで辞めたらもったいない」
「あと少し続ければ、チャンスが来るかもしれない」

そんな気持ちになりそうです。

すでに費やして取り戻せないお金や時間を、「サンクコスト」といいます。

それを惜しむあまり、今後の見込みよりも「ここまで費やしたのだから」という理由で、さらにお金や時間をつぎ込んでしまうことがあります。

続ければ、いつか報われるかもしれない。
もしここで辞めてしまえば、これまでの支出が無駄だったと自分で認めたように感じる。

でも、過去に払ったお金は、続けても辞めても戻りません。
ここは確実です。

そこで「成果が出ないのは、レッスンが足りないからだ」と考えれば、支払いを続ける、追加レッスンを申込み、支出を重ねる理由になります。

将来への期待で入所し、今度は過去への執着で辞めにくくなる。
裏を返せば、運営側にとってそれは、着実に月謝が入ってくる仕組みになっています。

いや~、この仕組み、ホントよくできているなー。
※個人の感想です。

人は誰しも「自分の選択は間違っていなかった」と思いたい

期待して入所したのに、成果につながらない。

「自分は可能性を認められ、価値のある投資をした」という思いと、「期待した成果が出ていない」という現実。

この食い違いから生じる不快感が、「認知的不協和」というやつですね。

これを解消するには、自分の選択を見直す方法があります。
でも、お金も時間も費やした判断を、間違いだったとあっさりと認めたくない、というのが人の心情というもの。

そこで、成果とは別のところで価値を見いだすことがあります。

「レッスンは楽しいし、ためになっている」
「仲間もできた」
「有名人にも会えた」
「生活が充実するようになった」

「だから、入所してよかったんだ」と自分を納得させようとします。

もちろん、楽しさや仲間には価値があります。それを否定するものでは全くありません。
ただ、仕事を得るために始めたのであれば、いつの間にか評価基準が変わっています。

「期待した成果を得られたか」から、「満足できたか」へ。

“オジサンA”、合格しても財布は開かず

ここまでで、仕組みや心理を考えてきましたが、私の結論は、入所を見送ることです。

私の目的は、単なる“オジサンA”から少しでも認知度や信用を高め、自社の問い合わせにつなげることでした。

発声とか演技とか、今さら芸能レッスンそのものを受けたいわけではありません。

限りある経営資源の中で、初年度約60万円と、レッスンに通う時間を投じることで、本業に具体的にどんな効果が期待できるのか。

いただいた案内からは、納得できる道筋を私は描けませんでした。

もちろん、事業に確実なリターンなどありません。

私も日々、不確実性のど真ん中で、経営判断をしています。

ただ、「ふわっとした可能性」だけに投資するわけにもいきません。

「せっかく合格したから」
「自分の可能性を認めてもらえたから」

その喜びと、お金を投じる判断は、分けて考えるべきだと私は思いました。

また、入所してから「楽しかった」「仲間ができた」と感じても、それは当初期待したビジネス上のリターンとは別です。

趣味として楽しむなら、そのための支出だと自覚して選びたいところです。

今回、合格して浮かれたことで、私自身もこうした心理と無縁ではないと実感しました。

お金を払った後なら、もっと冷静に考えにくくなっていたかもしれません。

それでも、応募してみたことは、よい経験でした。

これまで未知だった世界に足を踏み入れ、別の業界のビジネスモデルを知る機会は、とても参考になりました。

記事のネタにもできましたし(笑)。

合格証書は、ありがたく受け取ります。
でも、今回は財布を開かず、本業に戻ることにします。

自社事業の認知度を高めたい、という私の“スケベ心”が、いつかどこかで実を結ぶと信じて。

ちゃお。


※後日談:払込期限の直前にも運営者から3回目の電話

運営者:
『明日が一応、入所費の払込期日なんですが、もう少し検討してみませんか。”期日は延長”しますので。』

私:あー(察し)・・・、もう大丈夫です~。


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この記事を書いた人

株式会社まっとう代表。松戸市を拠点に、相続した実家や空き家、権利関係に課題のある不動産などの整理・売却を支援しています。単なる売買にとどまらず、金融実務経験を持つ1級FP技能士として、法務・税務上の論点も整理し、必要に応じて専門家と連携しながら解決を図ります。認定NPO法人で成年後見に関する相談業務にも携わっています。

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